現状を知る
東日本大震災後3年を迎えようとする現在、一時の全国的な危機感は薄れ、新聞報道やTVニュースの全国版にはほとんど記事が流れなくなっています。しかし現地の福島においては、福島第一原発4号機の燃料棒取り出し作業に息を呑み、寄せては返す不安の中、暮らしています。
これまでの支援で私たちが実感している現状を以下に報告します。
福島県は、東日本大震災において人類未曾有の地震・津波・原発事故 ・風評被害と4重苦に襲われ、放射性物質の飛散と沈着は人々の健康を何十年も脅かし続ける事態になりました。
通常の災害支援においては、一時の危機が去れば安心・安全を確保してポスト ・トラウマ(心理的外傷体験後) の支援を行うことができます。
しかしながら原子力災害が加わり危機が長期に続く事態になるとイン ・トラウマ( 危機のさなか心理的外傷体験の直中)であり、これまでの災害支援には無かった新たな心理支援を工夫する必要がでてきました。
東京電力福島第一原子力発電所から 20km 圏内や後から避難区域に指定された地域に住んでいた強制避難の人々は、家や故郷は壊れずに“ある”のにそれを失わなければなりませんでした。
しかもそれは戻れるかもしれない淡い期待もあり「曖昧な喪失」を引き起こしていました。
避難しないで住み続けることができる低線量汚染地域の住民も、農作物や畜産が制限され安全性を確認してから食物を摂取したり、子どもたちは外で遊ぶことが制限され、野の草花や石を思うままに手にしたり追いかけっこしたり、砂遊びしたりすることができなくなりました。
この地に留まり子育てすべきか?子どもの健康のために自主避難すべきか?
避難するとしたら家族全員で避難するのか、母子避難にするのか?
避難して子どもの体を放射線から守り将来の健康を守るメリットと、新たな地で生活に適応するストレスのリスクやこれまでの人間関係(父親・祖父母・友だち・先生など愛着のある環境)から引き離されて受けるかもしれない心の傷のリスクと、どちらが重いのか。
どちらが本当に子どもの心身の健康を守ることになるのか?子どもの人生にどちらが良いことなのか?
この地で暮らすとしたら、放射線量は本当に健康被害がない量なのか?水や食べ物は?母乳は?
公表されている「健康に直ちに問題がない」という検査データを信じるか否か?外遊びをさせても大丈夫なのか?
あるいは外に出ないとしたら健康や発育に問題は出ないのか?洗濯物は外に干してだいじょうぶか?将来子どもにもし健康問題が起きたら 、自分は後悔してもし きれないのではないか?
住民は新聞やTV、ネット等で情報を得たり 、行政や専門機関が行う講演会を聴いたり 、パンフレットを読んだりして放射能や低線量被ばくのことを自ら学び、夫婦で話し合い放射線の健康リスクとそれを防護するために起こってくるストレスのリスクのバランスを自己決定してきました。
しかし、選択をしても確証はなく、例えば子どもの甲状腺ガンが見つかったと報道があれば判断が揺れ、心配な報道があるたび寄せては返す波のように揺れつつ、その都度自分たちの選択はこれでいいのだと確認しながら生活を創ってきました。
日常生活の場で会話するときに、本当は気になっているのに話題にはしない不文律のようなものができつつあります。
放射線不安については、事故当初その低線量被ばくの健康被害がどの程度か “わからない”ということに反応して、人々は一種のパニックをおこしていたるところで話題になっていました。
その暖昧さゆえに不安が共有しにくくなり「そのことは話したくない。考えると自分が嫌な気もちになるから 」「人によって心配な度合いが違いすぎて、下手に話すと気まずくなるから」と回避的になり 「いろいろな観点から 考え検討して、避難しないと決めたのに「お子さんが小さいのに避難しなくていいの ?」と聞かれると、まるで子どもの健康を犠牲にしていると責められるように感じるから」と、日常生活の中ではこの話題を避ける傾向になってきています。
それは人々の絆を弱め、問題に立ち向かう力を低下させ、不安が潜在化し遷延化する傾向になってしまうのが心配です。
原発災害を伴った福島県は、岩手県・宮城県とは異なる様相を示し、その特異性・深刻きは震災関連死の多さに表れています。
震災関連死とは震災により直接的に亡くなったのではなく 、避難や避難生活の長期化によりストレスや病状が悪化しての死亡や自死などのことです。
震災直接死と震災関連死を合わせた「震災死」のうち震災関連死の割合をみると、福島県は震災死の40% (1184/3004人) 宮城県は8%(821/ 9563人) 岩手県8%(338/4200人)です。( H24年11 月調査) 震災関連死は宮城県・岩手県ともにほぼ同じく8%ですが、福島県はその5倍の40%を占めていました。危機が続き「 暖昧な喪失」「 陵昧な不安」 といったこれまでの状況が、なかなか問題の解決へ向かえない状況を作り、震災関連死の多さに表れていると思われます。
また平成25年7月29日から8月10日にチェルノブイリ原発事故により放射能に汚染され、様々な支援を展開してきたベラルーシ共和国に視察に行ってきました。現地の心理士との対談の中で子どもたちのケアにカウンセリングや保養事業(健康増進・元気UP事業)の有効性が語られました。
できましたら今後とも未来を担う福島の子どもたちを育むためにご支援を頂けますと助かります。 今後ともよろしくお願いいたします。